日々積み上がる積ん読タワーに立ち向かうブログ
 
『硝子のハンマー』貴志祐介
 JUGEMテーマ:読書感想文 

エレベータに暗証番号、廊下に監視カメラ、隣室に役員。厳戒なセキュリティ網を破り、社長は撲殺された。凶器は。殺害方法は。弁護士純子は、逮捕された専務の無実を信じ、防犯コンサルタント榎本の元を訪れるが--


見えない殺人者の、底知れぬ悪意。異能の防犯探偵が挑む、究極の密室トリック!「青の炎」から4年半、著者初の本格ミステリ!


日曜の昼下がり、株式上場を目前に、出社を余儀なくされた介護会社の役員たち。エレベーターには暗証番号。廊下には監視カメラ、有人のフロア。厳重なセキュリティ網を破り、自室で社長は撲殺された。凶器は。殺害方法は。すべてが不明のまま、逮捕されたのは、続き扉の向こうで仮眠をとっていた専務・久永だった。青砥純子は、弁護を担当することになった久永の無実を信じ、密室の謎を解くべく、防犯コンサルタント榎本径の許を訪れるが―。


これ読んだような気がしてたけど、しおりが第1部で止まってたわ。


大きく2部構成に分かれていて、前半は弁護士と本職は泥棒の防犯コンサルタントが密室の謎を解こうとする本格ミステリ。次々に仮説を立てさせては使い捨てていく中盤の三転も四転もする展開の気前よさ。そこから転じて第二部では犯人の視点で綴られる倒叙ミステリになる。


どうもレビュー読むと倒叙ミステリになってから面白くなくなったとか、作者は犯人の心理を描きたかったのかとか言われてますが、何を言いなさるかね。わたくしは2部に入ってからニヤニヤしっぱなしでしたよ。


普通ミステリというものは、特に探偵役が登場して「それじゃ今から謎を解きましょう」というものは、過去の話――すでに終わってしまったことの話をすることでしか終われない。密室の謎を解いて犯人当てるにしても、密室が作られた過程や犯人が被害者を殺した場面は既に終わってしまったことであり、探偵の論理はそれをなぞることしかできない。『硝子のハンマー』が面白いのは、著者オリジナルと言われる大胆な殺害方法やそれを成立させるためのミスディレクションもそうだが、ひたすら犯行に至る過程を現在形で解き明かしていこうとするところにある。


現在形――。これに貴志祐介はこだわっている。


倒叙ミステリとなった第2部で描かれる主人公の心理描写や犯行に至る動機は大して重要じゃない。お座なりと言ってもいい。それらは「取り敢えずの説明」ほどしかウェイト置かれてない。著者が本当に重要視しているのは「今ここ」で何が起こっているかの出来事性、現在進行形の語りである。


第1部の探偵パートと第2部の倒叙パートとが拮抗した関係にあり、常に出来事は過去へ向かうのではなく、今ここから未来へと開かれている。


これが面白いんすよ。

【2012.01.14 Saturday 23:01】 author :
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『THE QUIZ』椙本孝思
 JUGEMテーマ:読書感想文

――優勝者には賞金1億円。


そんな言葉に釣られ視聴者参加型クイズ番組に応募し、見事予選を突破した笠間翔太と添川陽奈だったが、それは正解すれば生き残れ、不正解なら殺されるデスゲームの始まりだった。外部への連絡は不可能、飲まされた遅効性の毒により180分後には全員死ぬ。最後に生き残った一人だけが解毒剤を手にできるルールで、果たして二人は他の参加者と協力して生き残れるだろうか。


そして。デスゲームを仕掛けた人間の真の狙いとは何か?!


……みたいな話です。


参加者が10人いるんだけど、彼らを充分に書き分けてないうちから死なせるんで、誰が誰だか分からない。漫画なら絵でカバーできるが小説でやられるとどちら様でしたっけ? という感じ。


人物を書き割りのうちにポンポン殺す一方で彼らに見せ場を用意してやりたいところもあって、というより死ぬ理屈を付けようとしてるのか、さっきまで陰薄かった奴が急に注目され出すと死ぬパターンが早い段階で読めてしまう。


一般的な知識・閃き問題は2問目までで、3問目からは参加者の個人的な事情に踏み込んだ問題が出される。これにより先ほどまではクイズの正解が分かっちゃうと誰が死ぬか読めてしまっていたのが、答えがこちらの知らないところに設定されてしまうため先読みを許さない展開になっている。


――のだが。


やっぱり目立つ→死ぬのパターンは不動なため、作者が狙ったほどは惑わされない。むしろ、さっきまでは誰が死ぬか先読みできても自分が解いたクイズの答えが合ってるかどうかで繋ぎ止められた興味が、ここにきて断たれてしまう。結局それは彼ら固有の問題に興味を示せるほど人物が描写されてないから。


こいつらが過去に何してようが今ここで殺されようがどうでもいいわ。そうとしか思えないくらい人物に魅力がない。この薄っぺらさは彼らの正体が***からくる内面性の希薄さとも関係してるのかと思ったが、そこまで考えて書いてるのかは分からん。仮にそうだとしても、それを成功させるには文章や技巧面にもっと知恵回さないと無理なんじゃ。


オチのアイデア一発頼みな小説。そこに驚けるかどうか。山田悠介系統ですね。

【2012.01.12 Thursday 15:30】 author :
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『熱帯夜』曽根圭介
評価:
曽根 圭介
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 620
(2010-10-23)

JUGEMテーマ:読書感想文

ホラーとミステリーを融合させ一風変わった短編を紡ぐことに定評ある著者の短編集。

曽根圭介の特徴のひとつに短編という限られた紙幅では控えられることが多い視点や場面、時系列のシャッフルを多用しスピーディーな展開で読者を煙に巻きながら伏線を回収しオチに持って行く構成が挙げられる。本書もその特徴を活かした作品が3つ並んでいる。

『熱帯夜』

表題作。日本推理作家協会賞短編賞受賞。

ヤミ金に手を出しやくざに捕まった夫婦と、二人の別荘にたまたま遊びに来ていた主人公の三人とが遭遇する一夜の恐怖と、峠道で見知らぬ男を轢き彼が持っていた大金を着服しようとする女の話とがクロスしながら、最後は一本の線となって収束する。
タイムリミットは2時間。美鈴とボクをヤクザの人質にして金策に走った美鈴の夫は戻ってくるのか?ボクは愛する美鈴を守れるのか!?緊迫の展開、衝撃のラスト。
このあらすじは狡いな。


『あげくの果て』

近未来日本小説。少子高齢化が進んだ日本では老人徴兵制が敷かれ、外国との戦争に送り出していた。老人を保護せよという団体、老人にばかり利権が集中して若者は仕事もないと暴動を起こす団体。時代の中で翻弄される老人、中年、少年の三人が語り部となりながら、それぞれの物語が最後に辿る結末は……。

一種のディストピア物でもあるSF小説。ただページ数の関係と語り部によるドラマ部分に筆を割いているため、社会背景その他の書き込みは多くない。それが最後でオチにも繋がる情報の伏せ方になってるんだけど。


『最後の言い訳』

これ笑った。

蘇生者(ゾンビ)が闊歩する近未来日本を舞台に、役所で働く主人公が語り部となり現代、蘇生者が誕生する以前の回想、蘇生者が人を襲うようになってからの回想の三パートで構成される。

前二作が語り部を二人ないし三人設定したのに対し、こちらは一人だがその分、話を三つに分け一人の口から語らせる。時系列で考えると「おかしいな?」と思ってた部分が最後きっちり回収される。

この作品のツボはタイトルにもなってる言い訳ですね。

主人公は小学生時代に愛ちゃんという女の子に恋をします。初恋です。愛ちゃんは背が小さいけど、そのコンプレックスを撥ね除けるため空手に勤しみ、男子と喧嘩しても蹴り飛ばしてしまう元気な女の子。主人公はデブで気弱ですぐ言い訳を考えては愛ちゃんに怒られていました。

幼い言い訳の他、現代パートでの言い訳、蘇生者誕生以後の世界で繰り返される言い訳も絡んできます。

特に蘇生者誕生以後の世界で繰り返される言い訳は著者のブラックユーモアが利いた風刺的な物で、実在の問題や団体、個人を思い起こさせます。

蘇生パンダが生パンダを食い殺した事件について中国政府は「中国を出たときは問題なかった。日本でゾンビ化したんだ」と言う。確か毒餃子事件の時、そんなこと言ってたような。他にも読めばあの事件かってのがあります。

新聞記事やインタビューの体裁でときおり挟まれるそれら「言い訳」がラスト四行の言い訳に繋がってオチる。

『熱帯夜』と『あげくの果てに』は少し技巧に走りすぎて上滑りしてる感もある。技巧に走ってると言えば『最後の言い訳』もそうなんだけど、これは読んだ後また読み返したくなった。最近こういう話に弱くなって駄目っすわ。

初恋の味は遠くなりにけり。
【2012.01.09 Monday 15:15】 author :
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魔法少女のくせになまいきだ。
JUGEMテーマ:ライトノベル

 『勇者のくせになまいきだ。』のタイトル堂々とパロってるけど怒られないのかなと要らぬ心配して開いたが、作者紹介文に「『勇者のくせになまいきだor2』メインライター」と書いてあった。じゃあ大丈夫か。

中身はゲームの素案を読まされてるような、小説としては組み慣れてないような印象が強く、中盤は変化に乏しい展開で一本調子に進むため文章量は大したことないはずなのに、妙に読み進めるのに時間かかった。

ちょっとキツイっすね。
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ソニー・コンピュータエンタテインメント
¥ 2,154
(2009-12-10)

【2012.01.09 Monday 13:03】 author :
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【映画】私の優しくない先輩


山本寛第一回監督作品。果たして第二回はあるのか。


この映画、正直に言うと最初の30分は見てるのがつらいです。川島海荷はワイヤー丸見えの宙づりで登場するし、およそ何のショット感覚も感じさせない平板な画面の連鎖が続く。


川島海荷の演技は過剰に物語へ奉仕することを義務づけられたキャラクター性しかなく、ここにはキャラはあっても人はいない。


これはアニメだ。映画じゃない。


と、そう言いたくなってしまうほど凡庸な30分を抜けると、事態は徐々に変わってくる。


川島海荷の役どころはすぐに「自分には無理」と言って退却し、内側の世界に引きこもってしまう、決して本心は見せず他人と本音でぶつかろうとしない少女で、それを「仕方ない」ものにしているのが心臓が弱く、長くは生きられないだろうという可哀想さの免罪符。


個人が引きこもれる内面世界などチープでオモチャのような物だ、ということを示すために冒頭から繰り返される宙づりはワイヤー丸見え、パーティーグッズのような星が浮かぶ世界にされている。


他者と適当に距離を取れる人間関係に安息を見出していた彼女の世界に、金田哲がズカズカと土足で踏みいると、外との接点ができてしまう。


この映画に寄せられた批判の代表的な物が「モノローグですべてを説明し尽くす退屈さ」だった。確かに最初の30分はその通りで、モノローグと行動にズレがなく、映画は全体に「それでいいのだ」とする雰囲気を漂わせながら自己肯定的に進む。


変化が訪れるのは憧れていた先輩が彼女の思っていたとおり品行方正な優等生ではなく、密かに見下していた同級生が彼から告白されたと聞かされたところから。モノローグと行動の完璧な一致が徐々にズレ始め、意味を成さなくなる。


川島海荷が演じるキャラクターは、キャラの枠を越え、物語から情念が分離して人間になろうとする。


その瞬間をカメラは計算高く用意周到な演出で捉えようとする。


とある映画評論家は川島海荷が「綺麗な夕陽」とつぶやく場面に、「あそこで夕陽を映さないなんてありえない。失敗だ」と断言していた。確かに自分も最初にその場面を見たときは「こりゃ駄目だ」と思ったが、あそこで示されるべきは何かを文脈から考えると、決して綺麗な夕陽→綺麗な夕陽ではなく、自己充足的な内面世界に引きこもり「綺麗な夕陽」という自分の中にある観念にしか目を向けず、現実と向き合わない少女の――川島海荷の抱える問題を、あの「映ってなきゃいけない物が映ってない失敗画面」は最小の手数で表してないか。


見えてるはずのものを見てない、見えないはずのものが見えている。


それこそ川島海荷演じるキャラクターに与えられた固有の問題ではないのか。映画はそれに何らかのけりをつけるため100分使ったんじゃないのか。

【2012.01.08 Sunday 11:24】 author :
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